13|Battle Buddy
- 7月4日
- 読了時間: 5分
更新日:7月4日
Battle Buddy
好きな仕事、辞めなければいけない理由
私は、この仕事が好きだった。
自分に合っている。
取り組み方を考える必要もなく、すっと入っていける。
私を取り巻く部署には気に入らないやつも姑息なやつもいたが、私は自信を持って自分の仕事に臨めた。
この分野は誰にでも務まるものではない。経験とノウハウが必要だ。
私は、それを文字にしてサーバーのフォルダに格納した。属人化を避けるためだ。
ところが、いざまとめてみるとスプレッドシート類は別にして、経験とノウハウの塊だと思っていた仕事が、書き出してみるとたったの7ページだった。
「え?オレの仕事、こんなもん?」
だが、本当に必要だったのは、“書かれていない判断”の方だったと思う。
経験とノウハウはこんなものだったが、この役割が縁となって、その後も長くお付き合いいただいた方もいる。
それは精神面で大きいものがあった。受け入れてくれる人がいる。
私は、この場所に辿り着くまで長い時間がかかった。
たくさんの出来事に揉まれて、遠回りをしたかもしれない。
だが、ようやく、このポジションなら自分は何かの役に立つことを感じられるようになった。
もっと早く、この位置に到達したかった。
でも、私は会社を辞めなければいけない理由があった。
役職定年と長男の大学入学
役職定年は58歳。
長男の大学入学も、同じ年。
会社は65歳まで、あるいは私が望めばもう少し長く勤務させてくれるだろう。
だが、確実に大学を卒業させられるだけの収入と我々夫婦の生活費が得られるか、それはその時を迎えてみなければわからない。
加えて、私たち夫婦も相応の年齢だ。
老後のことを考えると、働けるうちは働き、年金を繰下げ、貯蓄はそのままにしておきたい。
健康を損ねるようなことがあれば、と考えると、同水準の収入がないと不安で仕方ない。
収入も不安だが、何よりも私の年齢で働き口があるかどうかが問題だった。
備えていたこと
子供が生まれた時から、わかっていたことだ。
私は備えた。
役職定年の5年前、大型自動車第二種運転免許を取得した。バスにもトラックにも進める。フォークリフトの講習も修了した。
これに、英会話とDBMの技術を加えれば、「動」と「静」のどちらの業界に転んでも、少しはマシな展望があるだろうと考えた。
実は、リーマンショックの直後、私は肩叩きの不安に襲われた時期がある。
入社間もないので実績も少ないうえ、年齢と入社条件のせいで給与が高い。
こうしたことが私を別のリソース作りに走らせた。
しかし、会社は自主退職は別として、社員の削減をしなかった。
ここは相当立派だったと思う。
実際に働いたのは、トラックの業界だった。
3か月ごとの契約社員にしてもらい、あまり人気がない夜間勤務を選んだ。深夜手当のことを考えた結果だ。
トラックの日々
夜間配送のトラックの運転は想像以上に、眠い。
もう、これに尽きる。
大きな音で音楽をかけ、マーク・ボランやニック・ギルダーと一緒に大声で歌いながら首都高を走り回った。
孤独で体力的に厳しく、常に事故のことが頭から離れなかったが、引き換えに退職前の報酬を維持することはできた。
長男は、無事希望校に入学できた。
三拠点生活
ただ、今まで居住していた賃貸マンションに家内、親元を離れて暮らす長男、そして私も東京にアパートを借りる——三拠点生活となった。
家内は、長男の様子を見たいという希望があった。住まいは、家内の方が長男に圧倒的に近い。
苦労をかけている嫁だ。このくらいの希望は叶えてやりたい。
せめて長男の希望校と私の勤務先が近ければと思ったが、うまくいかない。
こうなると、なるべく早く家内を東京に呼び寄せることしか、方法を思いつかなかった。
なぜ東京かというと、当時、数年後に迫ったオリンピック需要を考えた。
物流の人手が不足すれば、私のような未経験者にも就業のチャンスはある。
家内の手
毎月、結構な出費となったが、家内は長男の生活に安心して1年後に私と合流、さらに、長男の生活と我々の生活を両立できる目処が立った。
家内は、腱鞘炎がつらくて、50歳前にはピアノが弾けなくなっていた。
当然、生徒も取らず、趣味としてのピアノに変わっていた。
そのふっくらすべすべしていた家内の手は、私が知らない間に血管が浮き、ガサガサに荒れていた。
三拠点生活の間、パートでデパ地下に勤務し、洗い物を続けてきたせいもあるだろうが、それ以前に、長い期間、仕事で留守がちな私の代わりに色々と無理をさせてきた。
言葉にできず、じっと手を見つめるしかできなかった。
すまない
次の仕事
このタイミングで、次の仕事を探すことにした。
私は、その候補として「寮」を選んだ。
ホテル時代の経験からくるホスピタリティと危機管理能力、加えて、外国人留学生が対象となれば、英会話能力も武器となる。
トラックを運転しながら、その姿を想像してみた。
行けそうな気がする。
また、彼女を巻き込む
ただし、寮の勤務となれば、一つだけクリアしなければならない問題があった。
家内が寮母を務めなければならない。
また彼女を巻き込んでしまうことに、後ろめたさを感じた。
が、香港の時と同じ進み方となった。
「うん。やるよ。子供、好きだし」
Battle Buddy
本当にこの嫁には助けられている。
ここに、私のもう一つ別の人生がはっきりと刻まれている。
息子よ、お前は母さんに感謝してもし切れないことを、わかる日がいつか必ず来る。
私もそうだ。
彼女はただの嫁では収まらない。
もっとも身近なところにもっとも大切な仲間がいた。
彼女は私の唯一の「 Battle Buddy 」だ。
何よりも強力な「 Devil Dog 」は、今も私の隣で一緒に前を向いている。
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