10-2|打ったの、カーブ?
- 7月4日
- 読了時間: 5分
打ったの、カーブ?
チームで回る、その目的
私は、順番にスタッフ1人ずつとチームを組んで回った。
目的は一つ。
「私が何をやろうとしているのか」を、実際に見てもらうことだった。
商品券、洗剤は、削らない。
なぜかというと、この上に会話が成立するという構造が、顧客にもスタッフにも出来上がっているからだ。
ここはもう不可触。
その代わり、拡販団員への依存を解消する。
これ。
本社からの補助金、販売店の折込広告収入、これらが拡販団員への高額な成功報酬に消えている。
私はこの構造を変えたかった。
本来不要である成約手数料、感じの悪い人間を使って商売しているイメージを拭い去りたい。
潮見表というツール
この街は漁師町でもあり、農家や一般家庭にも海が近いことから釣り好きが必ずいる。
そこで思いついたのが「潮見表」だった。
この街専用のものを作る。配る。
うちの新聞の読者だけに。
月ごとの潮汐をまとめ、購読期間に合わせて配る。
地元で一番情報に詳しい釣具店に協力を頼んだ。
彼は、漁協と懇意だ。
近隣の漁港や釣り場に特化し、表と一緒に店のチラシを折り込む。
情報提供の見返りだ。
すぐに、紹介で釣り船屋も輪の中に入った。
潮汐データの裏付けは、出典として海上保安庁第六管区の資料とTIDE for Windowsを並べた。
科学的な要素を差し込み、信憑性を高める。
ちなみに、食べる方はそうではないが、私自身は「釣り」が苦手だ。
さかなと忍耐を争う気になれない。
だが、会話に参加できる程度の知識習得は頑張った。
会話の設計
顧客を一軒一軒回るのは同じだが、最初から洗剤や商品券の話はしない。
付加価値が高いものから紹介する。
「購読期間中は必ずこれを付けます」
「お父さん、息子さん、喜ばれますよ」
「おかずにもなるし」
「えっ?どういった情報が一番知りたいことなんですか?」
そして、最後に
「商品券?当然ですよー」
この反応をデータベースに埋め込んだ。
まずは、ここまでを販売店のスタッフと共有した。
結果
一区域100部前後のエリアが、3か月で103部になった。
たかが3部。
8区域でおよそ20部強。
だが、この20部を従来の拡販で取ろうとすれば、どれだけのコストと摩擦が必要だったか。
仮説は当たった。
お互いの顔と生活が見える20部になってくれた。
ただ、その後もしばらくは増えたり減ったりした。
ただし、潮見表が成功を導いたのではない。
会話のきっかけ作りに過ぎず、そこからは我々、顔が見え、実際に配っている配達員(昼間は営業員)が生の声を拾って歩き、接点を広げる。
顧客は、先週新聞が破れていただの濡れていただのを直接配達員に伝え、配達員は即、作業に反映する。
もちろん、全てデータベースにタグで埋め込む。
配達員も、仕事の責任を自覚する。
狙っていたことの半分が達成できた。
横展開
同じ差別化を、別の切り口でも行った。
新聞社には、有名画家の水彩画シリーズという販促物があった。
これは特に女性に人気が高く、コンプリートするには長期購読が必要になる。
子どもがいる家庭では、構成をさりげなく聞き取る。
進学期、受験期。
うちが誇る一面コラムがもっとも威力を発揮するタイミングだ。
過去分を抜粋したサンプルを届ける。
新聞社が用意した出来合いのものもあるが、毎日紙面から切り取れば、膨大な資料が出来上がる。
どれが受験向きか、これを決めるのは難しかったが、手元にあればいつでも加工はできる。
顧客情報は、すべてタグにした。
記憶に残る一件
夏の高校野球地方大会の記事が、ローカルの紙面に載った。
区域内の学校の選手が、打点を挙げた記事だった。
写真に背番号が写っていて、名前も掲載されている。
データベースを引くと、その家は未購読だが、いつ何度訪問したか、さらに家族構成が記録されていた。
私は支局に頼んで、その日の紙面を保存版にして届けた。
新聞紙ではない、保管できる上質紙で。
「息子さんが活躍された日の紙面です。思い出になるかなと思って」
それだけ言って帰った。
後日、本人と母上が販売店まで礼を言いに来てくれた。
あいにく、あの試合には負けたが、相手ピッチャーは将来が有望視されていた子で、決勝まで行った。
新聞の話はしない。ただ、彼の実績には敬意を表すべきだろう。
「打ったの、カーブ?」
データベースの再設計
「シュノーケリング」と打てばリストが出る。
「登山」でも、「フリーマーケット」でも同じだ。
カテゴリー分けもできる。
逆に、何も出てこないリストも作った。
空白を埋めるために、そこを訪ねる。
レベルの細かさだけは際立っていたと思う。
この規模とこのスタッフ、そして、担当がK氏だからできたのだと思う。
One-to-Oneマーケティング、いずれ最終的にはこれを実装する。
新聞の販売店だ。
まずはこのあたりで様子を見て、改善して行けばいいと考えた。
そして
こうして、一つの目的が1年後に達成された。
拡販のために、団員を入れなくて済んだ。
代わりに、顔見知りで、情報を持った私たちが、契約切れ前に必要な人のところへ行く。
リスト化された競合の契約切れに合わせて、先に取りに行く。
850部が1年間で920部、積み上げが10%増には届かなかったが、継続すればなんとかなるんじゃないかというところにきた。
大きかったのは、うちから逃げる顧客が減ったことだ。
下支えが効いている。
営業している人間は、これを喜んだ。
売るのではなく、選ばれる状態を作ることが大切、これを浸透できたと思う。
あの兄弟の繋がりで、配達員も増やした。
残りの半分の目標、そして、ここがもっとも重要。
団員へ流れていた成功報酬は、今度はSさん達販売店のスタッフへ還元された。
顔が見える仕事をした人間に、利益が戻る仕組みへと変わった。
数字は、後からついてきた。
私が欲しかったのは、その前にある仕組みだった。
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