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エピソード07|文化摩擦のこと

  • 5月18日
  • 読了時間: 5分

更新日:7月6日

序文

国籍の違いが生む摩擦に、現場でどう向き合うか。経験から必要だと感じたことを、整理した。同じ問いを持つ人がいれば、「現場知」「実践知」としてå参考になるかもしれない。


「分かり合える」という傲慢を捨てる

留学生寮では、国籍が見えない距離を作ることがある。

中国人学生が、台湾人に友人関係を求めた。圧倒的に台湾人学生の在寮数が多かったからだ。

話はする。だが、活発な交流には至らなかった。


私は政治の話をしたいのではない。

この国籍を持つ子たちが同じ空間で暮らす時、何が起きるか。 それだけの話だ。

先の両国に限ったことではない。 イスラエルとその周辺国、インドとパキスタン、日本と韓国・中国・北朝鮮。 宗教、民族、歴史、領土。

理由はさまざまだが、センシティブな状況にあることに変わりはない。

都内の大学寮を管理した時、ドイツ人とポーランド人、ロシア人のコミュニティは、三者とも交流が活発ではなかった。

活発にしたかったのではない。対立していた訳でもない。

自然と、活発にならなかった。交わらなかった。

それに気づいた。


化学反応は必ず起きる

これらの国籍を持つ子たちが同じ寮にいる時点で、見えないところで何かは起きる。

言葉にならない違和感。 距離を取る動き。 時には、明確な対立。

無理に混ぜようとすると、爆発することもある。 でも、何もしないと、静かに分断が固定される。


一方で、彼らは歴史的・政治的な背景を理解しているからこそ、無用な衝突を避けるために「あえて距離を置く」という大人の知恵を働かせていた可能性もある。

同じ国の子だけで固まる食堂、ラウンジで自然に分かれる座席、イベント後に誰とも話さず帰る子、あえてニュースを話題にしない空気。


ただし、化学反応は一様ではない。

日本人と韓国人の学生は、アニメやK-POPといった共通文化の影響もあり、大人が心配するほど関係は悪くない。特に留学生にはそれが顕著だ。 国籍の壁よりも、個人の感性が先に動くこともある。


無理に仲良くさせない

これは、現場では前提となる。

「国籍が違っても、みんな仲良くできる」 「歴史は過去のこと、若い世代は関係ない」

こういう理想論を押し付けるのは、むしろ危険だ。

なぜなら、彼ら自身が背負っている歴史や感情は、本物だからだ。

それを「なかったこと」にするのは、暴力に近い。

だから、「仲良くしなさい」ではなく、「共存できる環境を作る」。


対立を表面化させない工夫

寮という狭いコミュニティでは、一度対立が表面化すると、修復が難しい。

部屋割りを決める時、私は国籍一覧を長く眺めることがあった。

同じ言語圏を避けるべきか、逆に孤立を防ぐため近づけるべきか。

実際の解はその年ごとに違い、私が一人で心配しても始まらないことに気づいた。

特定のグループが「占拠」しないよう、ルールを作った。

対立が起きやすい話題は、公の場では扱わなかった。

政治・歴史の議論を「禁止」ではなく、「適切な場で」と誘導する。

これで十分だったかは、分からない。

ただ、「触れないようにする」のではなく、「爆発しないように距離を取る」ことだけは意識した。


個人として関わる機会

「国籍」で見るのではなく、「個人」として関わる機会を増やす。

少人数のプロジェクト。国籍ではなく、興味や能力で組む。 一対一の対話。

グループではなく、個人として話す機会。

共通の「対峙すべき相手」を作る。例えば、寮の規則、学校の課題など、対立ではなく協力する構造。

「同じ国籍の人」としてではなく、「同じ寮の住人」として関わる時間を増やす。


対立が起きた時の対応

対立は起きる。それは前提だ。

だから、起きた時にどうするかを、事前に決めておいた。

誰が対応するか。私か、学校担当か、外部のカウンセラーか。

どこまで介入するか。個人的な対立か、集団的な対立か、政治的な発言か。

誰に報告するか。学校か、行政か、保護者か、大使館か。

これで足りるのか、何度も考えた。 でも、「その場で判断する」よりは、ましだと思った。


第三者の視点

私自身も、特定の国籍を持っている。 どちらかの肩を持つように見える可能性がある。 感情的に巻き込まれる危険がある。

だから、複数の大人で対応する。私と学校担当と外部カウンセラー。

できれば、異なる国籍の大人が関わる。日本人だけではなく、他国の教師も。

「誰か一人が判断する」のではなく、「チームで対応する」。


完璧な解決を目指さない

全員が仲良くなることは、目指さない。 対立をゼロにすることも、目指さない。 誰も傷つかないことも、目指さない。

目指すのは、「共存できる環境」だ。

物理的に安全であること。 精神的に追い詰められないこと。 対立があっても、爆発しないこと。

「共存」は「仲良し」ではない。 「お互いを尊重しながら、距離を保つ」ことも、立派な共存だ。


私ができること

私は寮の責任者として、できることをやった。

物理的な安全を守る。暴力、嫌がらせ、脅迫を許さない。 対立の予兆を察知する。誰が誰と距離を取っているか、観察する。 対立が起きた時に、迅速に動く。放置しない、でも過剰に介入しない。 一人で抱え込まない。学校側とチームで対応する。

それで十分だったかは、今も分からない。


最後に

多くの大人は、「若い世代は関係ない」「国籍なんて関係ない」と、目を逸らす。

でも私は、「化学反応が起きる」ことを前提に、どうするかを考えている。

それが、現場で私が取り続けてきた姿勢だと思っている。

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