エピソード03|それでも言えなかったこと
- 5月18日
- 読了時間: 2分
更新日:5月22日
今になって振り返ると、何かを言うべきだったのかもしれない、と思うことがある。
彼女は、ほとんどの時間を勉強に使っていた。
授業が終わると部屋に戻り、食事の時間になっても姿を見せないことがあった。
食堂ではなく、自分の部屋で食事を済ませることが多かった。
誰かに合わせるより、自分のペースを守ることを選んでいるように見えた。
机の上には教材とノートが積み上がり、ベッドは、休むためというより、一時的に体を横にする場所になっていた。
共用スペースで誰かが話していても、そこに加わることはなかった。
外に出る理由も、特に見当たらなかった。
16歳や17歳でしか使えない時間が、静かに、勉強の中に吸い込まれていくように見えた。 16歳で読む本と、30歳で同じ本を読むのとでは、印象が違う。
その年齢でしか開かない扉があると私は思っている。
周囲の学生たちは、本を読んだり、映画を観たり、体を動かしたりしながら、それぞれの形で時間を使っていた。
彼女は、その輪の外にいた。
悪意があったわけでも、拒んでいたわけでもない。
ただ、部屋に戻り、机に向かっていた。
私は、その様子を知っていた。
しかし、声をかける時間も、踏み込める関係も、十分になかった。
学校に報告の義務はあるが、決定に携わる権限はなかった。
それでも、声をかけることはできたはずだった。
私は、その様子を知っていた。
同じ場所にいて、同じ時間を過ごしていた。
それだけは、確かだった。
あの時、私はただ、そこにいた。
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