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観測ノート08|登りかけたはしご

5月18日
読了時間: 3分

更新日:10月24日


構造

洗濯物から始まる話だ。

学生寮や社会人寮では、よくある問題だと思う。

洗濯機は共用物で、私が勤務していた学生寮では、

6〜7人に対して洗濯機2台、乾燥機1台が割り当てられる計算だった。

些細な洗濯機の順番ひとつでも、そこに"構造の再現"がある。

誰かが譲り、誰かが支配する。

些末な場所ほど、人の関係は正確に浮き彫りになる。


互いに迷惑をかけないように使う。

当たり前のことだが、なかなか通じない。

洗濯も乾燥も時間がかかる。

特に冬場は、乾燥中に寝落ちする子も多い。

結果として、共用物が「誰かの専用機」になり、

常に洗濯物に占拠されて、他の学生が使えない状態となる。


対策は考えた。

大きめの洗濯かごを用意し、前の人の洗濯物を退避させる場所を設けた。

だが、誰も使わない。

理由は単純だ。

使えるかどうかを確かめるためにランドリーまで行くのが面倒。

他人の下着を触りたくない。


問題

観測ノート01に出てきた彼が、

この件で一番困っていた学生だった。

割り当て人数の関係で、順番待ちは長くなる。

ただ、この寮は建物が大きく、

同じフロアに予備の洗濯機と乾燥機が存在していた。

彼は、寮の許可を取らずに、内緒でそれを使っていた。

私は注意した。

勝手なことをしてはいけない、と。

この時点では、まだ楽器が壊れる前で、

私たちの関係は、その件を境に一気に悪化した。


対応

使えなくするのは簡単だ。

ブレーカーを落として鍵をかければいい。

だが、理解させたうえで使わせないようにするのは難しい。

同じ説明を繰り返し、相手が辟易するほど続けて、

ようやく「わかった」という返答を引き出した。

関係は、時間をかけてしか育たないのだと思う。

彼が持つ私への感情的な部分で代償は払ったが、これで終わったと思った。


介入

だが彼は、この話をIB担当に持ち込んだ。

私の言葉に納得したのではなく、別ルートを探したようだ。

彼はIB担当者に直談判し、担当は、冬場の洗濯物の乾きにくさにフォーカスし、

自分の権限で使用許可を出した。


私への相談はなかった。

私が、なぜそこにこだわったのか。

その説明をする機会もなかった。

私は、登りかけた梯子を外されたような気がした。

本人が、ようやく理解しかけたところだった。

そこへ別の大人が入り、話をひっくり返す。

本人の便宜を図ったのだろう。

それが善意であることも、わかる。

だが、本人のためという視点だけでは、

共同生活は成り立たない。

そこには、彼に対する私の立場もあった。

それが共有されることはなかった。

彼と私の関係は、これから拗れ続けていく予感がした。


苦情

私はIB担当者に苦情として伝えた。

私には、なぜ私がその点を重視したのか説明する機会がなかった。

寮と学校が、同じ学生を見ていながら、別々の地図とコンパスで動いていたようにも思う。

担当から見れば、私は外部の業者だ。

一緒に寮を作り上げる仲間ではない、と言われたように思えた。

そのことが、ひどく残念だった。


気づき

だが、後になって思う。

登りかけていたのは、私だけではなかった。

彼もまた、日本の共同生活という梯子を、

不器用に、だが確かに登り始めていた。

外されたのは、私の立場だけではない。

彼が獲得しかけていた「適応」そのものだったのかもしれない。


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