top of page

観測ノート02|文化を説明した日

5月18日
読了時間: 3分

更新日:9月7日


問題

留学生寮で働いていた頃、生活指導がうまくいかない場面が何度もあった。

ゴミの分別や夜間の騒音。

学生たちは、本国で馴染んでいた生活をそのまま持ち込む。注意しても、行動は変わらない。学生だけではない。これらは外国人教師といえども同じだった。

ルールを気にしない。皆、自分が思う通りのことしかやらない。

叱ることにも意味を感じられなくなる。


転換

ある時、やり方を変えた。

伝わらないことへのもどかしさがあったからだ。

ルールを守らせるのではなく、文化を説明することにした。

文化とは、ルールの背後にある"なぜそうするか"の集積だ。

共同生活を成立させる理由の積み重ねとも言える。

だから私は、その背景を説明することにした。


実践

ゴミが分別されなかった場合、誰が、どんな作業をすることになるのか。

私がゴミの分別をしている実際の様子を写真に撮り、学生に配布した。

ゴム手袋とトングで、残飯の付いたペットボトルを袋から取り出している。

カップ麺のカップには、スープと麺の残りがそのまま残されている。

ゴミ袋はスープでベトベトの状態で放ってある。

これも私が後始末をする。

それでも従わない学生には、分別されていないゴミを部屋に戻した。

苦情は出たが、方針は変えなかった。

自分の後始末は自分でさせる、これがないと私の仕事は前に進まないし、私にはそれが当然に思えた。

私が片付け続ければ、その場は簡単に収まる。

だが、それでは共同生活の負荷を誰か一人が引き受け続ける構造になる。

ここに気づいてほしい、これが目的だ。


記録

こうしたやり取りは、会話だけでは追いつかなかった。

言った、言わないを残すために、連絡はすべて文字で共有するようにした。

記録を残し、立ち戻る確認用の道具として、SlackとGoogle Workspaceを使用した。

母語がばらばらな学生と教師が混ざる中で、口頭だけでは誤解を招きやすい。


双方

騒音の件も、うるさいと訴えた側と、音を出していた側、両方に話をした。

どちらかを守るためではなく、その状況が続いた場合に何が起きるかを伝えた。

両方に問いを投げたが、その重さは同じではなかった。

苦情を持ち込んだ学生には、「次に同じことが起きた時、自分はどう動くつもりか」と問いかけた。

うるさくした方には、「お前の行動が、他の学生の学業に影響している。それをわかっているか」と尋ねた。

相手の未来に問いを置く。

結果責任を想像させる。

相手が自分事として考えざるを得ないように問いを投げた。

選択するのも回答を示すのも、学生たちだ。

その場で相手が動かなければ、問題はそのまま残る。

言葉の強さは、届かせるための選択だ。

その場にいない人が、権力による抑制に近いと言うならば、それは否定しない。

これは綺麗事では収まらない。

私は、その場でそういう選択をした。


結果

その後、数ヶ月はかかったが問題は減った。

回数を数えたわけではない。これらの問題に対する私の業務量が確実に減少したのでそう言える。

一定の基準を守らないと、より大きな負荷が学生たち自身にかかってくることが徐々にわかり始めたからかもしれない。

全員ではないが、行動を変える学生は確実にいた。

怒鳴らなかったから変わったのか、道具を使ったからなのかは分からない。

文化説明という方法は万能ではないが、必要条件ではあると思う。


理解と統制は両方必要だ。

理解だけでは現場は回らない。

統制だけでは人は育たない。

その両方を、状況に応じて左右の手に持ち替える必要があった。


そうしなければ、現場が回らなかった。



最新記事

すべて表示
観測ノート13-2|責任の空白地帯

欠如 この衝突は、防げたはずだった。 必要だったのは、Ground Rulesだ。 このブッフェは「全員が一巡できること」を前提にしている。 二巡目以降は、量に余裕がある場合。 なければ厨房担当がカウンターから下げて一巡目の子を待つ。 これはルールではなく、教育方針だ。 これを、事前に、明確な言葉で提示する。 そうすれば、 「理不尽な制限」ではなく 「システムの仕様」として 受け入れられたはず だ

 
 
 
観測ノート13-1|ブッフェのこと

出来事 国際寮の夕食はブッフェ形式だった。 厨房スタッフの頑張りのおかげで、評判がいい。 毎日、その日のメニューが並び、生徒たちは自分の皿に好きなものを取って席につく。最初の一巡目は、誰もが適量を取る。二巡目になると、気に入ったものをどっさりと盛る子も出てくる。 逆に、私がこれを取ると「後の子の分がなくなる」ことを心配する学生もいる。 そういう状況に対しては、また作ってもらうからとりあえず持ってい

 
 
 
観測ノート12|ラウンジ清掃のこと

「 S 」 女子IB生のS、彼女はこの寮には住んでいない。 通学の子だ。 よく寮に遊びに来る。 寮と外の境界を、自由に行き来できる数少ない存在だ。 何度も顔を合わせているうちに、私に対する恐怖心も和らいだようだ。 日本語が非常に上手なので聞いてみたところ、母上が日本人、父上が英国人と教えてくれた。結婚を機に、父上は日本駐在員として活躍されることを選んだのだそうだ。 生まれながらのバイリンガル、彼女

 
 
 

コメント


bottom of page